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東大寺の観音像を飾るガラス – Vitrum Lab.

Blog:羅馬は一日にして成らず -2nd edition-

東大寺の観音像を飾るガラス2012.10.30

東大寺法華堂の本尊・不空羂索観音立像(8世紀)(ふくうけんさくかんのんりゅうぞう)の宝冠には小さなガラス玉が使われていますが、
その成分分析をしたという新聞記事。 20点の調査の結果、15点が鉛を主成分とする国産ガラス、5点がガラスの国産化が始まる
以前に輸入されていたアルカリガラスと分かりました。

面白いことに読売新聞では成分分析の結果、「国産ガラスは正倉院宝物と同じ成分だった」とし、朝日新聞では「弥生~古墳時代に
輸入されたアルカリガラスが使われた」と 、両者の間で視点が違います。読売新聞が正倉院と比べたのはおそらく、今開催されている
正倉院展に協賛しているからだと思われます。

 

↑ 読売新聞                  ↑ 朝日新聞

なぜ成分がわかるのか?

成分を知りたい対象にエックス線を照射すると、対象物から蛍光エックス線というエネルギーが検出されます。このエネルギーは元素によって異なるため、どんな元素からの蛍光エックス線なのかが分かるというわけです。「蛍光エックス線分析」と呼ばれています。ちなみに普通、この装置は研究室にある据え置き型なのですが、今回ガラスを調査した東京理科大は、この装置を持ち運び可能型に改良しているので、発掘品の持ち出しがほぼ不可能な海外の調査でも分析が可能となり、データをどんどん蓄積されています。

なぜ国産とわかるのか?

鉛が含まれているものは産地推定が可能です。専門用語で「鉛同位体比分析」といいます。鉛には性質が同じでも質量数の異なる「同位体」が存在し、鉛鉱石に含まれる各同位体の割合が場所によって異なるため、「この同位体比はどこどこで採れる鉱石の比率と似ている」となればそこが鉛の産地と考えられます。ただしあくまで鉛の産地であり、その鉛をつかった製品がそこで作られたかどうかは別問題です。

さて、日本で初めてガラスが作られたのは奈良県・飛鳥池遺跡だとされています。ここからガラスが付着したルツボや原料と思われる方鉛鉱が見つかり、付着していたガラスの分析から鉛ガラスと判明、そして鉛同位体比を分析したところ、日本の鉛鉱石が使用されていたことが分かりました。

東大寺観音像の意義

読売新聞と朝日新聞では切り込み方が違いますが、どちらの視点もこの観音像の意義を表しています。今後、別の場所でガラス製造地が発見される可能性もありますが、現時点では奈良県にガラス製造の最先端拠点が当時存在していたということになります。飛鳥池遺跡から出土したルツボに付着していたガラス成分と正倉院のガラスの成分が似ていることから、正倉院のガラス玉は飛鳥池で作られた可能性があり、正倉院だけでなく、東大寺でも見つかったとなると、他からも国産ガラスが見つかる可能性もあります。実際、東大寺観音像と同じ8世紀に当たる薬師寺のガラスも日本産の鉛鉱石を使ったガラスと言われており(肥塚1995)、薬師寺のガラスと東大寺のガラスの比較も興味深いです。ちなみに、飛鳥池遺跡から見つかった、いわゆる「たこやき式鋳型」(画像はコチラ)に残っていた緑色ガラスの分析では、これがソーダ石灰ガラスとされています(谷一1999, p.127)。つまり飛鳥池では鉛ガラスもアルカリガラスも作っていたということになります。

東大寺観音像の宝冠のガラスにはアルカリガラスも見つかっていますが、飛鳥池遺跡のアルカリガラスとの関連性は分かりません。このガラスは国産ガラスが作られる以前に日本にすでに伝来していたガラスで、観音像は8世紀の工芸であるが、それよりも古いガラスを使用していたことになります。東大寺法華堂は聖武天皇(8世紀)が建立したが、その際、天皇家に伝来した宝物を捧げたのではないかという見方もできます。

飛鳥池遺跡のガラスと正倉院のガラス、そして東大寺のガラス、ひいては薬師寺のガラスの関連性が興味深く思います。またたこやき式鋳型のアルカリガラスがどこで発見されるのかも楽しみです。聖武天皇が伝来ガラスを宝冠に使うまでどこにガラスを保管していたのかということも今後分かるかもしれません(意外と正倉院から取ってきてたりして)。

参考文献

  • 肥塚隆保1995 「古代珪酸塩ガラスの研究」『奈良国立文化財研究所創立40周年記念論文集 文化財論叢』Ⅱ pp.929-967  奈良国立文化財研究所
  • 谷一 尚1999 『ガラスの考古学』 同成社
2012.10.30 23:03 | ブログ

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