Books:本の紹介

『遺産』2014.10.09

『遺産』

 

 

  • 笹本 稜平
  • 2013
  • 小学館
  • 550ページ

vitrum lab.評

目次はタイトルがつけられていないので略しました。この本は水中考古学に関連する小説です。滅多に小説は読まないのですが、丁度水中考古学に関心があったことから読むことにしました。簡単に言うと水中に沈んだ船の処遇を巡って、水中考古学者とトレジャーハンターとの対決を描いた物語です。この構図自体がシンプルで分かりやすく、さらに個人的には主要登場人物が少なくて性格もわかりやすいことから、550ページという大作にもかかわらず読みやすかったです。小説が嫌いなのは登場人物が覚えられないためなのですが、これは大丈夫。

本書には水中文化遺産を巡る問題も少しばかり出てきます。 それに関しては『文化遺産の眠る海』の紹介で詳しく書きましたが、水中文化遺産保護条約というものがあって、特徴として経済大国と呼ばれる国のほとんどが批准していないこと。なぜなら、海底資源開発のための調査で水中文化遺産が見つかれば、これの保護を優先させねばならず開発が遅れるからです。日本も批准していません。本書では日本やアメリカ、スペインが沈船を巡って駆け引きするのですが、スペインが批准国であるため、サルベージ会社に対してけん制する目的で主人公たちがスペインに沈船の所有権を宣言するように促すシーンがあります。

また火山によって新島ができるシーンではEEZ(排他的経済水域)が絡み、日本とアメリカが駆け引きをするシーンがあります。これによって新島付近に沈んでいる沈船の調査に影響がでるとかでないとか、そういう別の問題が浮上します。

沈船にはガラスが付きものですが、本書でもやはりガラスが一部登場します。それは沈船にガラスが積まれていて、考古学者にとってはそれは当時リサイクルが行われていた証拠になり貴重な資料と言えるのですが、トレジャーハンターにとっては価値がないというくだり。ガラスを積んだ沈船としてはトルコ沖のセルチェ・リマニが有名で、おそらくこのことを言ってるのだと思われます。他に木材の保存修復に使われるPEG(ポリエチレングリコール)も登場。本書では静岡市にある会社に沈船の木材保存修復を依頼するというシーンが登場しますが、モデルとなっている会社は思いありませんでした。

個人的には以上のような専門的な知識があったり、以下に紹介するような水中考古学系の本を読んでいたので、さらに深く楽しめたかなと思いますが、もちろんそんな知識がなくても小説なので普通に物語を楽しむことができます。

vitrum labook

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2014.10.09 01:03 | その他, , 考古学

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