『カルタゴの歴史』
碑文学者、アフリカ古代史学者の著作。文献や考古学の資料をぎゅっと濃縮したような内容となっています。
前半はカルタゴの誕生から滅亡まで、後半は目次のようなテーマに沿った内容です。
とはいえ、カルタゴはローマ帝国にことごとく滅ぼされてしまったため、考古学的にも文献史料的にも
残存する証拠がほとんどなく、ギリシャ人やローマ人が残した史料でカルタゴについて言及されている
部分から判断されることが多いため、その記述が正確かどうかは十分検討されなければなりません。
彼らはカルタゴ人とライバル関係にあったことから、その描写に公平性があるかどうかは疑わしい、といった
ことはカルタゴ研究では当たり前のこととなっています。
本書は訳書のため、訳し方も影響あるのでしょうが、文章がやや読みづらく、個人的には少し分かりづらいところが
ありました。結局は前述の理由で詳細な部分は分かっていないということが多く、また、カルタゴとローマとの壮絶な
戦いや駆け引きに期待するのであれば、本書はほとんどといってよいほどハンニバルとスキピオについては言及が
なく、 淡々と歴史が語られるだけです。カルタゴとローマの攻防については『カルタゴ興亡史』が詳しく、発掘成果による
議論は『通商国家カルタゴ』の方が分かりやすい感があります。
それにしてもアルファベットを完成させ、普及させた民族が自らの歴史を語ることができず、滅ぼした側の歴史から
語られるとは何という皮肉。
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