実際に発掘・地下墓保存修復に行っていたレバノンのガラス工房
は、当然、これまで紹介してきたシリアやエジプトよりも早く訪れ、
一番最初に紹介できるはずでした。しかし残念ながら、ここの工房
を見ることができたのは2回目のレバノン訪問の時。しかし稼働は
しておらず、その時はもう吹いていないのだとか、別の場所に職人
がいるとか、情報にブレがありました。稼働していない窯を見れた
だけでもラッキーだったのでした。なので先にシリアに行ったんです
けど。
結論を言えば、最後まで稼働してる窯を私は見ていません。しかし、
最後のレバノンでの活動を終え、卒業する年になった時、レバノンか
ら帰国したI教授から思わぬ贈り物を受け取りました。なんとガラス
工房の様子を収めたビデオテープだったのです。
私が帰国後にガラス工房が稼働しているということで当時レバノン考
古学者のたまごだったナーデル(現・レバノン考古局調査員)が現地へ
行って作業風景を録画してくれていたのです!I教授からはたくさんの
写真資料をいただきました。それを見ていたら、I教授がガラスを吹か
せてもらっている写真が(笑)
これらの資料は大切は研究資料として何度か使わせて頂いています。
ビデオテープを受け取ってから実は後日談というものがありまして、
このテープ実は8mmテープ!!当時ですらハードディスク録画タイプの
ビデオカメラが出だした時代、なんとかminiDVテープがまだ残っている
時、8mmテープといえば私のおやじの時代に流行したバカでかい家庭
用ビデオカメラに使っていたもの。受け取って喜んだのも束の間、どうや
って見るねん?
困っていると友人のお父様がまだ8mmビデオカメラを持っているという
ことで運よく借りることができました!・・・・が、アナログのカラーテレビの
規格がレバノンでは「PAL」形式、日本は「NTSC」形式、これら形式の
詳しいことは分かりませんが、ようするに走査線に関わる企画が両国で
違うため、映像を見るには録画した形式でないと見れないのでした。
そしてさらに悪いことに、借りたビデオが作動しなくなりテープを食ってしま
って取り出せなくなってしまったのです・・・友人が親子でビデオを分解して
くれ、手元に戻ってきて、ダビングしてくれる業者を探して・・・・という経緯で
ちゃんと見れるようになったのは、いただいてから1年くらい過ぎてからだっ
たのでした・・・・。
さてさて、前置き長くなりましたが以下詳細。
2人の職人が作業する窯で、横に長いのが特徴。職人のうちの一人はガラ
ス玉を作る。吹きガラスの設備でガラス玉を作るのはエジプトでも見られた。
内部構造は2層になっていて、下層にはレンガで組んだタンクがあり、熔けた
ガラスが入っている。吹き手の向かい側でガラス玉が作られているが、タンク
は共有している。下層の天井のちょうどガラスのタンクの真上には穴があり
ここから排熱が上層へ登るようになっている。その熱を利用して上層では徐冷
炉となっている。上層の床(つまり下層の天井)には2本のレールが吹き手から
向かって右方向に長く伸びており、レールの上に鉄カゴがおかれている。完成
したガラスはこのカゴに入れられ、順番に右へ右へと移動されていく。右へいく
ほど排熱が行き届かないのでガラスが徐々に冷めていくという仕組みである。
巻き取り口の前にはレンガで組まれた作業台があり、この上にマーバー(鉄板)
が置かれているが、台の上全部がマーバーではなく、これと巻取り口の間には
砂利が敷かれている。巻き取り口の右横には小さな穴があり、ここに使い終わ
った吹き竿を突っ込んで予熱し、次の作業に使う。日本や多くの世界中のガラス
工房でおなじみの「ベンチ」はなく、ガラスを水平に保ちながら竿を回すのは職人
の腿の上で行われる。この点も含め、作業はほとんどシリア、エジプトの工房と
同じである。職人は常時座ったまま作業し、アシスタントはいないので最後まで
一人で作業する。ただし、型吹きの場合は開閉式の型にガラスを吹きこんだ後、
アシスタントが型を開く手伝いをしていた。シリアではこれも職人が一人でしてい
た。吹き竿を切り離す時は砂利の上にガラスを落とす。
吹き手の向かい側ではガラス玉作りが行われる。
これに使われるのは中空ではなく無垢の長い棒が使われる。これを巻き取り口
に突っ込んでガラスを巻くのであるが、貫通した穴のあるガラス玉を作る必要が
あるため、棒の先端ではなく、先端から数十センチ下の部分に少量のガラスを
巻き取るのである。巻き取った後、ガラスには触れず、棒をピンサーでカンカンと
何度も叩き、棒を下に向けるとガラスはスルッと滑り落ちてとれる。なぜ離型剤
も何も塗っていない棒にガラスを巻きつけて、棒を叩けば簡単に落ちるのか未だ
に理由は分からない。また、吹きガラスと違って単純な作業であるが、そもそも
まっすぐな棒の先ならともかく、棒の途中にガラスを少し巻き取るという絶妙な方
法自体も不思議な光景であった。タンクのガラス面と水平に棒を近づけていき、
絶妙な棒のコントロールでガラスを軽く巻き取るのである。実際に見てみないと
詳細は不明だが何度作業を見直しても棒に細工しているようには見えない。
エジプトでの作業も同じであったが、エジプトでは先端が鉛筆のように尖った棒
を使っていて、ちょうど屈折した部分にガラスを巻き取っているようであった。先端
をとがらせてガラスと触れにくくする工夫と思われる。