Blog:羅馬は一日にして成らず -2nd edition-

チュニジアのガラス工房2011.03.31

いろいろな遺跡を巡った後、立ち寄った工房は現代風な美しいギャラリー
で多くのガラスが販売されていました。シリア、エジプト、レバノンには
ない、本当に現代的なところでした。でも工房が見当たらなかったので
ドライバーに伝わっていなかったのだと思い、工房を見たいとスタッフに
訪ねると、奥の扉まで案内してくれ、そこをあけると工房がどーんと広が
っていました。ギャラリーとは全く雰囲気の違う、職人の場と言う感じです。

若手の職人も多く、黙々と作業を続けていました。一人の職人が近づいて
きてガラスを吹かせてくれました。さて、この後、いろいろとお土産用にガ
ラスを買おうと思ったら・・・・財布がない・・・・この前に行った遺跡で落とし
たようです・・・工房見学できた喜びが一気になくなってしまいました・・・・
というエピソードのあるチュニジアの工房です。

チュニジア チュニスのガラス工房 「Sadika」

これまで見てきた中近東の工房(シリア、エジプト、レバノン)とは全く製作
システムが違い、これらが一人で全て製作する「専業型」であったのに対し
て、ここではポンテや型吹きなどにアシスタントが付く「チームワーク型」で
あった。そういう意味で、日本や世界の多くの工房で見ることができる作業
風景であったが、ほとんど立ったまま作業していた。「ベンチ」はあるが、口
成形の時に軽く使用する程度であったところが目新しい点であった。

立って作業

チームワークで作業を行うため、吹き手がずっと熔解炉の前にいてはアシス
タントの邪魔になる。そのためガラスを熔かす熔解炉と、再加熱用のグローリ
ーホール、完成して冷ます徐冷炉はすべて個別の設備として設置されている。
このあたりも多くの工房と同じである。

型吹きで作るタンブラーの工程を述べる。
ブロワーは吹き竿にガラスを巻き取り膨らませる。「ウッドブロック」という大きなス
プーン状の道具でガラスの形を整える。これは「マーバー」と同じ役割の道具で
濡らして使うためガラスの表面が冷め安定するとともに、丸くくぼんだところでガラ
スを受けるのでその形に丸くガラスが成形される。

よく加熱した後、ブロワーは台の上に乗り、ややガラスが垂れた状態で開閉式の
型の中に入れ、アシスタントが型を閉じると息を吹きこむ。こうして型の通りに形が
成形される。型の中で膨らんだガラスは、行き場を失うと型の上側からはみ出して
膨らむ。アシスタントが型を開くと、ガラスを取り出し、ポンテを付けて底部からもガ
ラスを支える。かたどられた部分と上に余分に膨らんだ部分の境目のところに鉄の
板を1周めぐらすようにカツカツと当てていくと、その部分が鉄の板によって熱が奪
われ急冷されるので、吹き竿に衝撃を軽く加えるとその部分から吹き竿が切り離さ
れる。この時点でほぼ完成している状態となる。最後に口を軽く加熱し、軽く成形す
るだけで完成である。

wood blockmold blownpontere-firefinish

それにしても、大きく開いた部分からうまくガラスが切り離されるものである。タンブ
ラーの口周りはけっこう大きいため、この部分で吹き竿を切り離すと口が欠けたり、
バリが残ったりするイメージがあった。

たとえば昔よくたべたチューペット。ちょうど真ん中が細くなっているため、二つにポキッ
と折ってアニキや友達と分けたものである。しかし端から端まで同じ太さのものだった
らきれいに真ん中で折ることはできない。どこに力がかかるかわからず、とんでもないと
ころで折れるか、または折ることすらできないはずである。

これと同じで、ガラスが太いときれいに切り離すのは難しく、ガラスが欠けることがある
ため、普通はあらかじめ切り離し部分を細く括っておく。このままではタンブラーとしては
使えないため、口を広げていく作業をする。細い状態の口にジャックをつっこんで竿をまわ
し、ジャックの角度を徐々に変えていきながら口を広げていく。この時、例えば口の付近に
気泡が入っていた場合、気泡は口が広がるにつれて伸ばされて横長になる。しかし、上
記のような型吹きで作り、吹き竿を切り離すとすでに口は開いた状態になっているので、
気泡が横に伸びることはない。

古代ガラスの技法を推測する際に、口もとの気泡の形は口広げをしたのかしていな
いのかの基準となり、口広げをしたものは口もとの気泡は横長である。しかし中には丸い
形が維持されたままのガラスもあり、丸い形を維持したままどのように口広げしたのか疑
問に思ったことがあった。型吹きが当然考えられたが、上記のような口欠けの不安があり、
経験的に言っておススメできる方法ではなかったが、この工房ではそれが普通に行われて
いた。古代の技法を考える大きなヒントとなった。

2011.03.31 22:58 | ガラス工房, 旅行

コメントを残す